エネルギーとエントロピー
「物理のすべて」のレッスン 3 / 6・約8分
エネルギーは消えない。でも散らかり具合は増え続ける。割れたスマホが元に戻らない理由を見ます。
このレッスンで学ぶこと
- エネルギー保存則
- エントロピーと時間の向き
レッスンの内容
落としたスマホの行方
高さ1.5メートルから落としたスマホは、0.55秒後には秒速5.4メートルで地面に当たり、画面が割れます。
当たった瞬間、その速さはどこへ消えたのでしょう。実は、消えていません。
持っている分と、動いている分
手に持っていたスマホは、高さの分だけ「いつでも落ちられる」たくわえを持っていました。これが位置エネルギーです。
落ちている最中は、速さの分を持っています。こちらが運動エネルギー。
落下中に起きていること
問題:スマホが落ちている最中、2つのエネルギーはどうなっていますか?
- 高さの分が減り、速さの分が増えている(正解)
- 高さの分も速さの分も、そろって増えている
- 高さの分は変わらず、速さの分だけが増えている
解説:落ちるほど高さは減り、そのぶん速さが増えます。
作れないし、消せない
高さの分が減ったぶん速さが増え、2つの合計は落ちている間ずっと同じです。
エネルギーは作れず、消せず、形を変えるだけ。これがエネルギー保存則です。
○か✕か
○か✕か:地面に当たってスマホが止まった瞬間、そのエネルギーは消えてなくなった。
答え:✕。バキッという音、地面とスマホがわずかに熱くなった分、画面を割るのに使われた分。この3つに姿を変えて、ちゃんと残っています。
物理でいう「仕事」
物理でいう仕事は、力を加えて、実際に動かした分だけ。力と動いた距離を掛けて数えます。
仕事をした分だけ、エネルギーが相手へ移ります。落ちたスマホは、自分の蓄えで画面を割る仕事をしました。
汗だくでもゼロ?
問題:重いバーベルを頭の上で支えたまま、10秒間じっと動かずにいました。物理でいう仕事はどれくらいですか?
- 支えていた時間の分だけ仕事をしている
- 動かしていないので仕事はゼロ(正解)
- 重さの分だけ仕事をしている
解説:力は間違いなく出していますが、動いた距離がゼロなので仕事もゼロです。頑張ったかどうかは、物理の側では見てもらえません。
なぜ、巻き戻らない?
エネルギーの合計が変わらないなら、破片が集まってスマホに戻ってもよさそうです。
でも、そんな場面は一度も見たことがありません。保存則だけでは、この向きを説明できないのです。
壁を外してみる
仕切りを外して、左に並んだ粒を自由にします。もう一度きれいに左へ戻る瞬間があるか見ていてください。
散らかりに名前を付ける
粒は1つも消えず、変わったのは散らばり具合だけ。これがエントロピーです。
全部が左に戻る確率は、粒10個で約1000分の1、100個なら10の30乗分の1。禁止ではなく、確率が低すぎるのです。
戻る可能性はある?
問題:左に集まっていた100個の粒が広がったあと、偶然また全部左側にそろう。これは物理的にどう扱われますか?
- ルールで禁止されているので絶対に起きない
- 起きてもよいが、起こりにくすぎて事実上ない(正解)
- しばらく待てば必ず一度は起きる
解説:1つ1つの粒の動きだけ見れば、逆向きも自然です。ただ、散らかった並び方のほうが圧倒的に数が多いので、そちらに落ち着いてしまいます。
時間に向きがある理由
動画を逆再生すると、破片が集まり、湯気がカップに戻るので、すぐおかしいと気づきます。
私たちは散らかりが増える向きを未来だと見分けています。これが時間の矢です。
量は同じ、でも戻らない
- エネルギーは消えず、形を変えるだけ
- 力を加えて動かした分だけが、仕事として数えられる
- 散らかり具合は増えるほうにしか進まず、それが時間の向きを作る
総仕上げ
問題:エネルギーは保存されるのに、割れたスマホが元に戻らないのはなぜですか?
- 割れたときに、エネルギーが少しだけ失われるから
- 量は同じでも、散らかった状態のほうが圧倒的に起こりやすいから(正解)
- エネルギーが元に戻ることを禁止するルールがあるから
解説:量の話と向きの話は別でした。おつかれさまでした。では、スマホの電池にためるエネルギーは、線もないのにどうやって充電台から届くのでしょう。次は触れずに力が伝わる仕組みを追い、光の正体に迫ります。
用語
- 仕事(Work)
- 力を加えて実際に動かした分。動かなければ、どれだけ力を出してもゼロ。
- 時間の矢(Arrow of time)
- 時間が未来へ進む向きのこと。散らかりが増える向きと同じ。
- エントロピー(Entropy)
- どれくらい散らかっているかの度合い。放っておくと増えます。
- 位置エネルギー(Potential energy)
- 高いところにあるだけで持っている分。いつでも落ちられる蓄え。
- 運動エネルギー(Kinetic energy)
- 動く物がその速さに応じて持つエネルギー。
- エネルギー保存則(Conservation of energy)
- エネルギーは作れず消せません。形が変わるだけで合計は同じ。