「歯科医の80%が推薦」が止められた理由
「統計に騙されないための数字の読み方」のレッスン 2 / 13・約5分
英国で広告の審査機関に止められた「80%以上が推薦」を例に、数字を誰が作り、何を聞き、誰が広めたかをたどる方法を身につけます。
このレッスンで学ぶこと
- 出どころをたどる
レッスンの内容
「歯科医の80%以上が推薦」
英国で歯みがき粉のコルゲートが「歯科医の80%以上が推薦」と広告しました。専門家のお墨付きに見えます。
ですが2007年、英国の広告基準協議会はこの広告を誤解を招くと判定しました。
「いくつ挙げてもいい」調査だった
元の調査で、歯科医は勧めるブランドをいくつでも挙げられました。80%は、コルゲートを挙げた人の割合です。
実は、競合のブランドもほぼ同じくらい挙げられていました。
1つだけか、いくつでもか
「1つだけ選ぶ」と「いくつでも選ぶ」を切り替えて、3つのブランドの%の合計がどう変わるか見てください。
考えてみよう
問題:歯科医が勧めるブランドを何個でも挙げられる調査で、80%がコルゲートを選びました。ここから言えるのは?
- 80%の歯科医が、コルゲートも勧めた(正解)
- 80%の歯科医が、他社よりコルゲートを好む
- 80%の歯科医が、他社の製品を勧めない
解説:いくつでも挙げられたので、80%は「勧めた中にコルゲートが入っていた」割合です。競合も同じくらい挙げられていたので、コルゲートが一番とは言えません。
数字を出す人には、出す理由がある
英国王立統計学会のガイドは、企業は自社に有利な結果を、政治家は政策を支える数字を選んで広めやすいと注意しています。
学術誌でさえ、新しい発見があった研究のほうが載りやすい傾向があります。
利害があっても、すぐには捨てない
利益相反があるからと、数字が嘘とは限りません。調べ方を詳しく見る合図だと捉えましょう。
政府の発表も同じで、イギリスには統計の使い方を見張る英国統計機構が存在します。
○か✕か
○か✕か:大学の研究なら、企業が研究費を出していても、調べ方まで確かめる必要はない。
答え:✕。肩書きだけでは不十分です。資金源や調査方法は大学の研究でも確認します。
数字は渡るたびに短くなる
数字は、調べた人、記事を書いた人、SNSで広めた人と渡るたびに短くなります。「いくつでも挙げてよい調査の80%」が「80%が推薦」に縮むのも、この途中です。
元の報告書まで戻れば、質問と答え方が見えます。
考えてみよう
問題:同じ調査を伝える3つの記事のうち、中身を確かめやすいのは?
- 質問文と元の報告書へのリンクがある記事(正解)
- 監修した専門家の経歴と写真がある記事
- 調査会社の名前と回答者数だけの記事
解説:元の報告書があれば質問文や聞き方を自分で確かめられます。肩書きだけでは分かりません。
出典がない数字は、広めない
英国王立統計学会の助言はシンプルです。出典のない数字は疑い、共有しない。
拡散数や強い言葉は、正しさの証明になりません。
数字の名札を見る
- 誰が作り、誰がお金を出し、誰が広めたかをたどる
- 利害は「捨てる理由」ではなく「方法を見る理由」
- 元の資料で、質問と答え方を確かめる
- 出典が見つからない数字は、共有しない
考えてみよう
問題:広告の数字の出典をたどる目的として、いちばん近いのは?
- 数字が作られ、選ばれた条件を知るため(正解)
- 数字を出した人の誤りを証明するため
- 数字が広まった範囲の大きさを知るため
解説:出典確認は犯人探しではなく、数字が生まれた条件を知る作業です。では、出どころが警察や病院のような公的な記録なら、そのまま信じてよいのでしょうか。次は、同じ病院の待機リストが「650万人」とも「780万人」とも言われた英国の例から、数え方の罠を見ます。
用語
- 利益相反(Conflict of interest)
- 数字を出す人が、その結果によって得や損をする立場にあること。
- 英国統計機構(UK Statistics Authority)
- 英国で公的な統計が正しく作られ、使われているかを監視する機関。
- 広告基準協議会(Advertising Standards Authority (ASA))
- 英国で広告表現が誤解を招かないか審査する独立機関。