光ったから、そこが担当とは限らない
「脳科学入門」のレッスン 2 / 10・約6分
脳が光る画像は、その場所が「必要」だとまでは教えてくれません。fMRI、脳に傷がある人の研究、磁気刺激。方法ごとに何が言えて、何が言えないのかを見分けます。
このレッスンで学ぶこと
- 光ることと、必要なことは別の証拠
レッスンの内容
脳が光る、あの画像

顔を見ると、脳の一部が赤く光る。そんな画像をよく見かけます。
でも、光ったからといって本当にそこが顔の担当なのでしょうか。
光っているのは、血の流れ
画像の多くはfMRIで撮られます。ニューロンが活動すると血が増えるため、その変化を写しています。
光る色は、顔と物を見たときの差です。
○か✕か
○か✕か:脳の画像で光るのは、ほんの一部の場所だけ。つまり、ふだん使っているのは脳の10%ほどだ。
答え:✕。光るのは2つの場面で差が出た場所だけです。脳は体重の約2%ですが、安静時でも全体のエネルギーの約20%を使い、眠っていても働き続けます。
光る点が乗る、しわのシート
光る場所の多くは、脳の表面の大脳皮質です。厚さは約2.5mm。
広げるとピザ1枚半ほどのシートで、fMRIは1mm単位で見分けます。
血は、数秒遅れてやってくる
ニューロンは、写真を見て0.1秒足らずですぐ反応します。
でも血が増えるのは約2秒後で、fMRIの信号のピークは5〜6秒後です。
fMRIが苦手な問い
問題:fMRIは場所を1mm単位で見分けられますが、信号は数秒遅れます。fMRI単独では調べるのが難しいものはどれでしょう。
- 顔を見て0.1秒後と0.2秒後、どちらで反応が始まるか(正解)
- 顔を見ると強く光る場所が、脳のどこにあるか
- 顔と家を見たとき、同じ場所の光り方に差があるか
解説:0.1秒単位の素早い変化は、数秒かけてゆっくり増える血流の波に埋もれてしまいます。
光った場所は、必要な場所?
脳の底には、顔を見ると強く光る顔の地区があります。
ただ、光ったからといって、顔の見分けに必要とは限りません。ついでに動いただけかもしれないのです。
4つの方法を比べる
脳を調べる方法は、活動を読むか、働きを止めるかの2つです。
顔を見分けるのに本当に必要かまで確かめられる方法を探してみましょう。
確かめるには、働きを止める
必要かを調べるには、脳の損傷や磁気刺激のように働かない状態を作ります。
電極も、活動を読むだけでなく、電気で邪魔してみて初めて役割が分かります。
顔の地区を失った人
病気などで顔の地区あたりを失った人がいます。その人は、顔を見ても誰だか分かりません。
ところが、物なら問題なく見分けられました。
この結果から言えること
問題:顔の地区あたりを失った人は、物は見分けられるのに顔だけ誰か分かりませんでした。ここから言えることはどれでしょう。
- その場所は、顔を見分けるのに必要だ(正解)
- その場所は、物を見分けるのにも必要だ
- 顔は、脳全体を使って見分けている
解説:その場所が使えないと顔だけ見分けられなくなったので、顔を見るのに「必要」だと分かります。
健康な人の脳を、一瞬だけ乱す
磁気刺激は、頭にあてたコイルからごく短い磁気を送り、脳の働きを一瞬乱します。
健康な人でも「必要か」を試せますが、届くのは脳の表面だけです。
乱すと、顔のパーツが見比べにくい
顔の地区は奥にあり磁気が届きません。そこで表面に近い別の顔エリアを乱すと、目や口の見比べが苦手になりました。
邪魔が効いたのは、顔を見て0.06秒後と0.1秒後だけです。
どの方法で、何が言えるか
- fMRIは血流を写す。場所は1mm単位で分かるが反応は数秒遅れる
- 画像で光ったからといって、その働きに必要とは限らない
- 必要かを知るには、脳損傷や磁気刺激で働かない状態を見る
- 脳画像を見たら、どうやって確かめた結果なのかに注目する
仕上げの確認
問題:ある場所が顔を見るたびにfMRIで光りました。そこが顔を見分けるのに必要だと証明するには、次に何をすればよいでしょう。
- その場所の働きを一時的に止めて、見分けられるか試す(正解)
- より高精度のfMRIを使って、光る位置を測り直す
- もっと多くの人を集めてfMRIで調べ、光り方を比べる
解説:画像を見るだけでは「必要か」は分かりません。働きを止めて試す必要があります。ところで、怪我もないのに生まれつき人の顔が覚えにくい人が1〜2%ほどいます。その人たちの顔の地区はどうなっているのでしょう。次回、本当に顔だけを担当するのか迫ります。
用語
- fMRI(Functional MRI)
- 血流の変化から脳の活動を画像化する装置。場所は細かく分かるが、変化の検出には数秒の遅れがある。
- 電極(Electrode)
- 脳の表面にあてる小さな金属。脳の電気活動を記録したり、弱い電気で刺激を与えたりできる。
- 大脳皮質(Cerebral cortex)
- 脳の表面をおおう厚さ数mmのしわ状のシート。顔や言葉などを処理するエリアが集まる。
- 磁気刺激(Transcranial magnetic stimulation (TMS))
- 頭の外から磁気をあて、脳の働きを一瞬乱す手法。健康な人でその場所が必要か調べられる。
- 顔の地区(Fusiform face area)
- 脳の底のあたりにあり、顔を見たときに強く働く領域。多くの人でほぼ同じ場所にある。
- ニューロン(Neuron)
- 脳の中で電気信号をやりとりする神経細胞。脳全体におよそ860億個ある。