脳はあなたをサボらせたい

「やる気に頼らない脳を作る方法」のレッスン 2 / 7・約6分

ソファでスマホはラクなのに、筋トレはおっくう。その差は、脳の省エネ本能から来ています。

このレッスンで学ぶこと

  • 使う道が速くなる
  • 新しい道を育てる

レッスンの内容

努力ゼロでできることの謎

仕事から帰ってソファでスマホを開くのに、気合は要りません。ところが「30分筋トレ」となると、強い抵抗を感じます。

同じ体なのに、この差はどこから来るのでしょうか。

神経回路を覆う絶縁体

オレンジ色の神経の軸索を、青いミエリンの節が間隔を空けて覆い、赤い矢印が神経信号の進む向きを示す手書き風の図
青いミエリンが、神経信号の通り道を絶縁している。

鍵の1つは、神経の通り道を包むミエリンという脂質の膜です。

ミエリンに包まれた神経は、包まれていない神経の何十倍も速く信号を運びます。

刺激すると、巻かれる

2014年の実験で、マウスの運動領域を光で刺激するとミエリンが増加しました。

その領域が動かす脚の動きもスムーズになりました。

ピアノを弾いた時間

人でも、スウェーデンの研究で、子どものころのピアノの練習時間が長い人ほど、関わる神経線維の束がよく整っていました(2005年)。

使い方に合わせて、すでにある配線が整えられていくのです。

古い習慣が楽な理由

問題:何年も続けてきた習慣が、考えなくてもできてしまう理由として、マウスやピアノの研究に合うのはどれでしょう。

  1. 使い続けた回路ほど、信号が速く通りやすくなっている(正解)
  2. 脳がもともと、悪い行動を好むように作られている
  3. 習慣になった行動には、脳がまったく働いていない

解説:使った神経ほどミエリンが増え、信号が速く通るようになります。習慣の行動でも脳は働いていて、通りやすい道を使っているのです。

脳は巨大な大飯食らい

脳は燃費が悪い

脳は体重の2%ほどですが、エネルギーの約20%も使います。しかも、ボーッとしている時も大半を使っています。

新しい作業が重いのは、一度に向けられる注意の量が限られているからなのです。

前頭前皮質の高額な請求書

考えて動く脳から、自動の脳へ

初めての行動は、前頭前野などが考えながら進めます。

反復するうちに、脳の奥の線条体による自動回路へバトンタッチされます。

抵抗感の正体

○か✕か

○か✕か:新しいことを始めるときに感じる億劫さは、意志が弱い証拠だ。

答え:✕。自動の回路がまだ育っていないので、一つひとつ注意を使って動いています。重く感じるのは、始めたばかりならふつうのことです。

川の流れを変える土木工事

川の流れを変える

脳の回路は川に似ています。水は深く削られた本流へ自然に流れます。

「掘る」を押して右に新しい溝を掘り、水がいつ移りはじめるか確かめてみましょう。

古い川を消そうとしない

古い川は消えません。元の場面に戻ると再び水が流れ込みます。

だから塞ぐのではなく新しい水路を作り、いつもの場面ごと新しい行動に結びつけます。

古い習慣の物理的現実

○か✕か

○か✕か:強い決意で新しい習慣を始めれば、古い習慣の回路は数日で消える。

答え:✕。使い続けてきた回路は、すぐには消えません。いつもの場面に戻るとまた働きやすいので、その場面で新しい行動をくり返すことが鍵になります。

水路切り替えの戦略

問題:夜のスマホを読書に替えたい人がいます。新しい水路を掘る考え方に合う作戦はどれでしょう。

  1. 毎晩同じ時刻・同じ場所で、まず1ページ読む(正解)
  2. スマホを見たくなるたびに、気合で我慢し続ける
  3. スマホを見てしまった日は、自分を強く叱る

解説:同じ時刻・同じ場所で新しい行動をくり返すことが、新しい道を育てます。我慢や叱責は、新しい道を1回も使っていません。

ミエリンと省エネのまとめ

速い道と、新しい道

  • 使い続けた神経ほどミエリンが増え、信号が速く通る
  • 新しい行動は注意を使って進め、くり返すうちに自動の回路へ移る
  • 古い道と戦うより、新しい道を毎日少しずつ使う

総仕上げクイズ

問題:新しく始めた朝のストレッチを、毎朝まだ「やるぞ」と考えないとできません。このレッスンの仕組みで説明すると、どうなるでしょう。

  1. 自動の回路が育つまで、注意を使って動いている段階(正解)
  2. 意志が弱いので、この習慣には向いていない
  3. ミエリンがもう完成していて、伸びしろがない

解説:初めのうちは、前頭前野などが注意を使って動かします。くり返すうちに自動の回路へ移っていきます。おつかれさまでした。では、「私は朝型じゃない」のような自分像は、行動とどう関わるのでしょう。次は、言葉を1語変えた選挙の実験と、その追試の意外な結果を見ます。

用語

ミエリン(Myelin)
神経の通り道を包む脂質の膜。これがあると、信号をずっと速く運べます。